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デジタル学生証

「デジタル学生証」導入の壁(技術・運用・費用)をどう越えるか – まずは一歩を踏み出すために –

「デジタル学生証」導入の壁(技術・運用・費用)をどう越えるか – まずは一歩を踏み出すために –

本コラム(前編/後編の全2回)の前編では、身分証明のモバイル化が社会全体で急速に進む中、「デジタル学生証」が「学内の取り組み」から「社会で通用する仕組み」へと変わりつつあるという現在地をお伝えしました。標準化の進展も相まって「デジタル学生証」の導入が少しずつ現実のものとなってきています。

そうは言っても、いざ自校での導入を検討すると、「技術」「運用」「費用」という3つの現実的な壁が立ちはだかります。後編となる今回は、実際に導入を進めた大学の取り組みを交えながら、この壁の乗り越え方のヒントを解説します。

デジタル学生証導入に立ちはだかる「3つの壁」

本コラム前編「『デジタル学生証』を取り巻く環境の劇的変化 社会でつながるデジタル身分証明へ」で見てきた通り、デジタル学生証をめぐる問いは、「導入するかどうか」から「いつ、どう導入するか」へと移りつつあります。しかし、いざ自校での導入を具体的に検討し始めると、多くの教務・DX推進担当者の前には、次の3つの壁が立ちはだかります。

技術の壁:物理カードの信頼性を保ったデジタルでの機能再現。既存学内システムや設備との連携。

運用の壁: 入学時、試験時、学内外の日常における、トラブルのない運用ノウハウの構築。

費用の壁: 限られた予算内で、無理なく効果をあげるためのスタート法。

物理カードの学生証が担う機能とは

まずは、物理カードの学生証が担う機能を整理しておきます。

一つは、試験や授業時、大学窓口での本人確認、通学定期券や各種学割サービスの利用、飲酒時の年齢確認、資格試験受験時の本人確認といった身分証明書としての機能です。学内外の両方で使われます。

もう一つは、出席登録や施設への入退館管理、図書の貸出、証明書発行機の利用など、学籍番号と紐づいたICカードとして学内システムや設備と連携する機能です。こちらは主に学内利用が中心です。

学内利用は大学で解決可能ですが、学外利用の場合は交通機関や試験団体などとの連携が必要になるという違いがあります。

それでは、これらの学生証の機能をどうデジタルで代替していくのか、技術の壁から見ていきましょう。

技術の壁 〜信頼性と既存設備との連携方法〜

学生データの源泉選択と学内システムとの連携をどうするか

最初に検討すべきは、学生データの源泉として何を採用するかです。氏名や学籍番号に加え、顔写真などの属性情報も必要です。これらを含む学籍データベースが教務システムなどにあれば、それがデジタル学生証データの起点になります。

続いて、更新方法も検討します。学籍データの変更のたびに手動で入力するシンプルな運用のほか、教務システムとAPI(システム同士がやりとりするための仕組み)で連携し、リアルタイムに近い形やバッチ方式で更新する方法もあります。また、すでに認証基盤(IdP:Identity Provider)を導入している大学であれば、その仕組みを活用した連携も検討できます。

このように検討すべき点は多岐にわたるため、自校に最適な形をとるには丁寧な整理と設計が欠かせません。よって、既存システムを担うベンダーと、デジタル学生証を提供するベンダーとの連携が重要になります。

偽造防止と不正利用対策、既存設備との連携をどうするか

物理カードの学生証は、顔写真による目視確認に加え、ホログラムや特殊な印字といった偽造防止加工、そして磁気やICチップを機器にかざす検証という、複数の仕組みで信頼性を担保してきました。デジタル学生証では、これらをそれぞれ技術でどう置き換えるかが検討ポイントになります。

本人確認としての利用

大学内の窓口や試験会場などでの本人確認では、これまでの目視確認を代替する技術的な対策が必要です。課題の一つとして、画面のスクリーンショットを保存して見せるといった、デジタルならではの不正への対策です。これを防ぐため、券面表示を静止画ではなく動的に変化させる対策が有効です。

例えば大和大学では、30秒ごとに更新される動的なQRコードを学生のスマートフォン画面に表示し、常に更新されることでスクリーンショットとの区別を容易にしています。さらに、教員用アプリやQRリーダーでこのコードを読み取ることで、氏名や在籍状況が即座に照合され、本人確認をシステムとして実現することが可能です。

QRコードや時間表示など動的に変化するデジタル学生証の画面(サンプル)

ICカードとしての機能

磁気カードやICチップを機器にかざして行っていた出席登録、入退館ゲート、図書の貸出、証明書発行機の利用は、QRコードやNFCへと置き換えを検討します。例えば秋田大学では、これらをQRコード対応の設備に切り替え、スムーズに運用しています。

<秋田大学様 MyCampus導入事例>
学生証の発行業務を削減、デジタル学生証でかなえる次世代キャンパスDX – 地域とともに進む秋田大学のDX –

その他の選択肢としてBluetoothの活用があります。教室に設置したビーコン端末が学生のスマートフォンの近接を検知し、「本人がその場にいる」ことを確認します。多くの学生が同じ場所に集まるシーンでの出席確認といった活用が見込まれます。既存設備をどう活かし、どの技術を採用すべきかは、設備の仕様、導入コスト、本稼働までの期間を踏まえ検討を進めることが重要です。

学外利用にどう対応するか

学外での本人確認・身分証明としての利用においては、交通機関や店舗、資格試験団体などと、大学が個別に技術連携を行うのは複雑でコストもかかるため現実的ではありません。こうした現時点での学外利用の実態や運用面のヒントについては、次の「運用の壁」で取り上げます。

技術面で見据えておきたいのが、NIIによるデジタル学生証の標準仕様の提案やフェリカネットワークス「学生証プラットフォーム」による標準化の動きです。標準規格の完全な普及を待ってから対応するのではなく、現段階から標準化に対応可能なデジタル学生証を導入しておくことが、学外での通用をスムーズに実現する上で有効でしょう。

技術の壁を乗り越えるために

ここまで見てきたように、技術面でまず取り組むべきは、物理カードの運用と現状のシステム・設備を棚卸しし、対応できるところから着手することです。そのうえで、今後の進展を見据え、標準化が追いつくまでは運用面で補いつつ、標準化に対応可能な柔軟なシステムを導入していくこと。このアプローチが、技術の壁を無理なく越えるための鍵になります。

運用の壁 〜学内外での本人確認、トラブル回避のために〜

学内での本人確認をどうするか/試験時の本人確認

学内での運用として特に話題になるのが、試験時の本人確認です。物理カードの場合、机上に置く運用が一般的ですが、デジタル学生証でこれをどう運用するのかが不安要素となっているようです。物理カードを廃止した大和大学では、次の2通りの方法で対応しています。

まず、受験者数が少なく座席を指定できる場合は、教員用アプリで写真付きの履修者名簿を表示し、着席順に教員が本人確認を行います。一方、受験者数が多く座席指定が難しい場合は、学生にスマートフォンを机の右上に置かせ、指示があったときだけ画面を表示させます。この運用では、机の下で操作するといった不正がかえってしにくくなるという利点があるようです。

大和大学の教職員からは「今のところ運用上のトラブルは特に起きていない」という声が届いています。絶対的な正解はありませんが、自校の履修規模や試験形式に応じて、こうした先行事例を参考に無理のない運用を採用することが大切です。

<大和大学様 MyCampus導入事例>
デジタル学生証を中心に学内システムを連携した大学ポータルアプリ – 大和大学が実現するデジタル改革 –

教職員アプリ画面

学外利用時の運用の壁を整理

学外での利用は、大学だけの努力では解決が難しい相手側の対応状況に左右される部分です。通学定期券、各種学割・年齢確認、マイナンバーカードの受け取り、資格試験受験時の本人確認という4つの場面について、現状を整理します。

通学定期券

デジタル学生証による通学定期券の購入は、電鉄会社によって対応状況が分かれています。大阪大学や大和大学の近接するエリアでは電鉄会社側がデジタル学生証を認めており、スムーズに運用が進んでいます。一方、JR東日本など対応していない電鉄会社も少なくありません。

ただし、対応していない場合でも、多くの電鉄会社では事前にオンラインで学生証と通学証明書の写真を登録しておけば、以降は窓口に並ばずQRコードをかざすだけで購入できるようです。モバイル定期券であれば受け取り自体が不要なケースもあります。

2026年5月時点、JR東日本のようにデジタル学生証が認められていないケースでは、引き続き物理カードや紙の証明書の携帯が必要ですが、今後は、社会の潮流からも各社の対応が広がっていくと見込まれます。

<大阪大学様 取材記事>
デジタル身分証で進化するキャンパス - 学内を超えて社会へと繋がる大阪大学のDX戦略 –

学割サービス・年齢確認・行政手続きにおける本人確認

各種学割サービスの利用については、現状では大きな問題は起きていない様子です。飲酒時の年齢確認では、導入当初こそ店舗側で認められないケースも見られましたが、こうした事例は徐々に減ってきています。マイナンバーカードの受け取り窓口における本人確認では、デジタル学生証が身分証明書として認められています(*1)。

*1 「電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律施行規則及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律施行規則の一部を改正する命令案について 」(総務省) https://www.soumu.go.jp/main_content/000939069.pdf

資格試験受験時の本人確認

資格試験受験時の本人確認は、試験実施団体側の対応にばらつきがあります。2026年5月時点では、TOEICは本人確認書類としてデジタル学生証を明記して認めている一方、実用英語技能検定や日商簿記検定、ITパスポート試験や情報技術者試験はデジタル学生証やスマートフォンの画面提示を認めないと明記しています。

現時点での備え:物理カードは廃止しても、証明書用紙は残す

通学定期券や資格試験のように、未対応な場合に備えて証明書用紙という形で最低限の備えを残す対応が有効です。大和大学では入学時に顔写真入りの「在学証明書兼通学証明書」を全学生に配布し、秋田大学では証明書発行機で希望する学生が自分で「通学証明書」を発行できる仕組みを用意しています。物理カードそのものは廃止しても、こうした紙の証明書を最小限残しておくことで、学外での本人確認がまだ通用しない場面にも備えられます

中長期での備え:標準化と役割分担を見据える

こうした学外利用の壁も、中長期的には解消に向かうと見られます。一つは、NIIの規格整備やフェリカネットワークス「学生証プラットフォーム」のような標準化の動きです。学外の相手先ごとに個別に対応するのではなく、共通の基盤を活用することでデジタル学生証のスムーズな学外利用が期待されます。

もう一つの視点は、「すべてをデジタル学生証で担う必要はない」という考え方です。デジタル庁が示す社会の将来像では、マイナンバーカードが社会のさまざまな場面での本人確認・資格証明を広く担っていく方向性が描かれています。年齢確認のような場面は、こうした社会共通の身分証明の仕組みが担う役割として整理されていく可能性があります。

大学がすべての場面を自校の運用だけでカバーしようとするのではなく、標準化の進展や役割分担の変化を見据えながら、今後の対応を決定していくことが重要です。

「デジタル学生証 導入の「壁」をどう乗り越えるか?」(2026.5.26)アシアル株式会社講演資料より
(出典 左:フェリカネットワークス株式会社、右:デジタル庁「マイナンバーカードを活用した在学資格証明デジタル化実証実験メディア向け報告会」より抜粋

運用の壁を乗り越えるために

運用の壁に唯一の正解はありません。先進校の取り組みを参考にしながら、自校に最適な対策を選択することが基本になります。物理カードを廃止するか、当面は併用を続けるか。廃止する場合も、証明書用紙のような最低限の備えを残しておくと安心です。そのうえで大切なのは、標準化や社会の潮流を見据えながら、柔軟に対応できるように準備しておくことです。

費用の壁 〜コストの捉え方と予算に合わせたスモールスタート

コストをどう捉えるか/発行コストだけでは見えないもの

デジタル学生証導入のメリットとして、まず思い浮かぶのが「カード発行コストの削減」ではないでしょうか。しかし実際には、多くの大学が物理カードとの併用を選択しており、発行コストが即座にゼロになるわけではありません。むしろ、既存の学内システムと連携させるための改修コストが、新たに発生することもあります。

つまり、「カード発行コストの削減」という単純な捉え方だけでは、投資に対するリターンを測りにくいのが実情です。この壁を越えるには、コストの捉え方そのものを見直す必要があります。

学生証にまつわる業務の棚卸しで見えてくる「隠れたコスト」

コストを捉えるには、物理学生証にまつわる業務全体の棚卸しが有効です。物理カードの発行は、入学式直前の数日間で、数千枚単位にもなる膨大なカードに対応しなければならず大きな負荷がかかります。他にも、試験当日に忘れた場合など臨時発行対応、紛失・破損による再発行、学内外での紛失時の問い合わせ対応など、日常的な業務負担も積み重なります。

物理カードとの併用の場合も、デジタル学生証中心に切り替えることでこれらの負担が分散・軽減され、担当者の業務に余裕が生まれる点は見逃せません。

さらに、ICカード型学生証の場合、出席確認、安否確認、入退館管理などシステムごとに個別の管理コストがかかっているケースも少なくありません。これらを一つの仕組みに統合すれば、更新時のコストを抑えられる可能性もあります。

このように、学生証にまつわる業務全体を整理し直すと、単純な「発行コスト」だけでは見えない隠れたコストが見えてきます。洗い出したコストを、デジタル学生証導入の費用に充てるという考え方もできるでしょう。

スモールスタート、そして段階的な拡張

出席管理や入退館、図書貸出、安否確認など、あらゆる学内システムとデジタル学生証を一気に連携させようとすると、初期投資が大きく膨らみます。

そこで有効なのが、スモールスタートという考え方です。物理カードとの併用の場合、発行コストや業務削減は限定的になりますが、初期コストを抑えながら無理なく立ち上げられるという利点があります。まずはデジタル学生証そのものの導入から始め、周辺システムへ順次対応を広げ、段階的にポータル化を進めていく。こうした進め方であれば、限られた予算の中でも着実に効果を積み上げていくことができるのではないでしょうか。

「デジタル学生証 導入の「壁」をどう乗り越えるか?」(2026.5.26)アシアル株式会社講演資料より

費用の壁を乗り越えるために

デジタル学生証は、物理カードと異なり追加発行のコストがほぼかからないという特性があります。これを活かせば、将来的には在学生に限らず、地域住民や卒業生、受験を検討する高校生などに向けて、大学のサービスを利用できる「利用証」を発行するといった応用も考えられます。学生や利用者が日常的に使うようになれば、利用データが自然と蓄積され、AIなどを活用した新たな価値創出も視野に入ってきます。

デジタル学生証は単なる物理カードの置き換えにとどまらず、大学がさまざまなサービスを展開していくための、活用の中心に位置づけられるものです。発行コストの削減効果だけでなく、見えないコスト、さらにはこうした中長期的なリターンも含めて効果を検討することが、費用の壁を乗り越える上で重要になります。

まず一歩、小さく始めて動向を注視する

ここまで、デジタル学生証導入に立ちはだかる「技術」「運用」「費用」という3つの壁と、その乗り越え方を見てきました。

技術面では現状のシステム・設備の棚卸し、運用面では先進校の事例を参考にした自校に合った形の検討、費用面では隠れたコストや中長期的な価値も含めた費用対効果の捉え直しがポイントです。3つの壁に共通するのは、現状の丁寧な分析から始まるという点です。

そのうえで大切なのが、標準化の動向や社会の潮流を見据えながら、柔軟に対応を拡張していく姿勢です。今すぐ全てを解決するのではなく、できることから小さく始め、社会の動きに合わせて広げていく。これが、3つの壁を無理なく乗り越えるためのヒントになります。

そのために、検討の初期段階から導入・運用まで一貫して伴走してくれる、信頼できるパートナーの存在が欠かせません。デジタル学生証は単独で完結する仕組みではなく、大学の既存システムと連携しながら将来の展開を見据える、長期的な取り組みだからです。

「デジタル学生証をいつ、どう始めるか」という問いに、まずはスモールステップで向き合ってみませんか。

まとめ

デジタル学生証の導入には、技術・運用・費用という3つの壁が伴います。しかし、これらは順を追って整理していけば、乗り越えられないものではありません。大切なのは、最初から完璧を目指さず、まずは現状を整理し、既存システムでどこまで対応できるかを把握することです。信頼できるパートナーとともに、今できるところから柔軟に「スモールステップ」で進めていくことこそ、今の時代に合った現実的なアプローチだと考えています。

アシアルはデジタル学生証を実現するソリューションとして「MyCampus」を提供しています。「MyCampus」はデジタル学生証の導入効果を高める機能が充実しています。教務システムやLMSなど既存システムとの柔軟な連携や、QRコードやNFCでの入退室管理、MyCampusビーコンを設置することで出席管理も実現できます。デジタル学生証が大学ポータルアプリとして運用できることで、学生証をデジタル化するメリットを最大限活用することができます。デジタル学生証に興味がある方は、ぜひお問い合わせください。
デジタル学生証がポータルアプリにもなる「MyCampus」のご案内資料もあわせてご覧ください。