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「デジタル学生証」で職員・学生は本当にラクになるのか?従来の物理カードでの困りごととは?

スマートフォンの普及と社会全体のデジタル化を背景に、学生証のデジタル化が注目されています。本記事では、従来の物理カード型学生証の課題を整理し、デジタル学生証が学生と職員にもたらすメリットを調査します。
従来の物理カードの学生証とは
学生証の機能と意義
学生証は、大学が学生本人の在籍やその身分を学内外で証明する重要な証明書です。大学の校章やイメージカラーなどが採用され、学生が大学への帰属感、伝統や誇りを実感する大切なアイテムです。学内では、施設利用、試験・授業時、証明書発行時に、学外では通学定期券の購入や各種学割の適用に使用されます。そのため、学生は学生証を常に携帯する必要があります。学生の個人情報や顔写真などが記載されており、盗難や紛失を防ぐための適切な管理が要求されます。
従来型学生証の仕組みと特徴
従来型の学生証は、プラスチック製のカード型のものが主流で次のタイプがあります。
その特性からメリットやデメリットがあります。
磁気ストライプタイプ | 帯状の磁気ストライプにデータを記録。比較的コストが低い反面、記録容量が少なく、暗号化に対応していないためセキュリティが課題。摩擦や汚れに弱く耐久性に課題があり再発行の頻度が高くなることもある。 |
ICチップタイプ | カードに内蔵されたICチップという小型の電子機器にデータを記録。非接触型と接触型のタイプがある。記録できるデータ容量が多く、暗号化にも対応しているためセキュリティや利便性が向上する一方で、カード自体の費用が高くカード発行コストが増加。現在、物理学生証を利用する大学の多くはこちらのタイプを採用している。 |
大学生活に欠かせない学生証ですが、従来の物理カードはその仕組み上、課題があります。近年、社会全体のデジタル化の流れにおいて「デジタル学生証」に注目と期待が集まっています。
物理カードの学生証が抱える困りごとを整理し、「デジタル学生証」の普及が学生や職員にどのような変化をもたらすのか具体的に考えていきます。
大学・職員視点で考える物理カード型学生証の困りごと
入学式前の慌ただしい学生証の準備
学生証は大学生活において重要な役割を担うため、入学式当日、少なくとも新入生が大学生活を始めるタイミングで学生証を渡さなければなりません。しかし、入学者が完全に決定するのは、入学式直前という大学が多いのが実情です。
ある大学の例では、入学式の1週間前に入学手続きが締め切られて入学者が確定します。その後、学籍番号が決定され、学生証に必要な情報を急いで揃えます。翌日までにデータを印刷会社へ送信し、カード型学生証の印刷が始まります。この間にも、追加合格者の発表があるため、学内でも並行して印刷作業を行う必要があります。そして、入学式前日に印刷会社から学生証が納品され、会場やクラスごとの仕分け、辞退者分の廃棄作業が急ピッチで進められます。

大学や職員の困りごと!
学生証を入学式に間に合わせるため、直前の期間は非常に慌ただしい準備を余儀なくされ、大学職員の大きな負担となります。また、学内で印刷をする場合には高額なカードプリンタを備え、消耗品が必要となる点も困りごとと言えます。
「デジタル学生証」で入学式前の準備はどう変わる?
「デジタル学生証」の場合、入学者が確定したら教務システムに必要なデータを登録するだけで完了し、大幅な効率化と負担軽減を実現します。追加合格や入学辞退が出た場合にも、データを更新すればリアルタイムの反映が可能です。学生には「デジタル学生証」アプリのダウンロード方法と認証に必要な情報を伝えるだけです。入学式前の慌ただしい作業負荷を削減し、余裕を持って準備を進めることができるようになります。

紛失や破損、変更による再発行や無効化
学生証の破損・磁気消失や紛失があった場合、職員は学生からの届け出を受け取り、本人確認を行なって再発行の手続きをとります。氏名などの変更がある場合も同様です。再発行までの間に学生が困ることがないよう、仮学生証や許可証を発行します。除籍や退学時には学生証を回収しなければなりません。
また紛失や未回収の学生証は悪用される可能性があるため、即座にICチップに含まれる学生IDをシステム上で無効化するなどセキュリティ対策を施すことも重要です。
大学や職員の困りごと!
学生証再発行や回収の手間は、職員にとって大きな負担です。盗難や紛失のほか、磁気カードは劣化による破損が頻発するため、管理業務の負荷が増大します。
試験期間中など、特に迅速な対応が求められる場面では、通常業務への影響も避けられないでしょう。
「デジタル学生証」で再発行や無効化はどう変わる?
「デジタル学生証」の場合、システム上で無効化すれば即座に反映されます。万が一、スマートフォンが盗難にあっても学生証アプリでログイン認証ができないため、悪用される可能性は大きく低減します。そもそも物理カードがないことから破損や物理的な紛失自体がなく、磁気ストライプカードのようにスキミングで情報が漏洩するリスクもありません。
ID再発行やデータの変更もシステムに登録するだけで完了します。物理カードでは困難であった毎年の顔写真の更新も手軽に実現できるのです。
このようにセキュリティが高まり、大学職員の負荷を大幅に低減した上で、即時更新を可能にします。
コストの高さと環境への影響
物理カードの場合、カード自体の費用に加え印刷費用、ICチップへの登録費用が発生します。1枚あたり1000円前後(枚数や納期、登録情報で価格は変動)、決済機能がある場合はさらに高額になります。大学全体では年間数百万円ものコストがかかるのではないでしょうか。磁気ストライプ型のものは安価ですが、耐久性が低く発行頻度が増える分、コスト負担が増加します。毎年、有効期限をすぎた数千枚にのぼるプラスチックカードが廃棄物として処理されるため、環境への影響は無視できない課題です。
大学や職員の困りごと!
毎年多くの学生が入学する大学にとって、高額な発行コストは困りごとです。また利用を終えた膨大なプラスチックカードが廃棄された場合、土壌汚染や海洋プラスチック問題につながります。大学が環境への意識を示す上で解決すべき重要なテーマと言えます。
「デジタル学生証」でコストや環境への影響はどう変わる?
「デジタル学生証」の場合、物理カードの発行が不要になるため、年間数百万円にのぼる発行コストが削減されます。物理カードの輸送や廃棄が発生しないため、環境負荷も大幅に削減されます。コストのメリットに加えて、SDGsに対する積極的な取り組みを示すことで大学は社会から高く評価されることとなります。
学生視点で考える物理カード型学生証の困りごと
スマホ時代に物理学生証の不便さ
政府ではキャッシュレス決済の比率を2025年までに4割、将来的には8割にするという目標を掲げて利用拡大を推進しています。経済産業省が公表した2023年のキャッシュレス決済比率は、39.3%と目標達成に向けて堅調に上昇しています。
特にスマートフォンを用いたコード決済の伸び率が大きく、学生など若年層の現金決済率の低下につながっています。

このように学生証を利用する学生は、スマホ決済が当然とも言える世代です。決済はもちろん、定期券や会員カードの利用、音楽や動画の再生、読書、家電の操作など、様々なシーンをスマートフォン1つで手軽にこなしています。現金決済比率の低下や各種会員カードのアプリ化などによって、利用頻度が低下した財布は、最小限の現金やクレジットカード程度しか入らないコンパクトで薄いものへと変化しています。中には財布を持たない学生もいますが、物理カードの学生証を携帯しなければなりません。
学生の困りごと!
財布や学生証を所持すること自体が学生の利便性を大きく下げます。スマートフォンは生活に密着していて忘れることが少なくても財布や学生証を忘れてしまうという問題も発生します。
スマホ時代に物理学生証の不便さ 「デジタル学生証」でどう変わる?
スマホアプリの「デジタル学生証」の場合、財布やカードから物理的に解放されます。また従来の学生証と同様に「デジタル学生証」も大学の歴史や伝統を感じられるデザインが可能で、学生の利便性を大きく向上させつつ、大学への帰属感を失うこともありません。
紛失や破損時の負担とセキュリティの懸念
学生証の紛失や破損があった場合、学生は職員へ届け出て再発行の手続きを行います。紛失の場合、大半の大学では、1000円〜3000円程度の学生の費用負担があります。数日〜1週間程度の期間を要すことも多いようです。紛失や盗難の場合、学生証の悪用や情報漏洩につながる可能性もあります。
学生の困りごと!
学生証を失うことは大学生活に深刻な支障をきたし、再発行にかかる費用負担も悩みの種です。厳重な管理を求められる点も学生の負担となり、セキュリティリスクへの懸念も大きな困りごとと言えるでしょう。
紛失や破損時の負担とセキュリティの懸念 「デジタル学生証」でどう変わる?
「デジタル学生証」の場合、物理カードのように財布に入れて持ち歩くことがないため、「失くす」ということがありません。万が一、スマートフォンが盗まれても、パスコードや生体認証などでロックされており、簡単には悪用されることがないでしょう。さらに即座に教務システム上で学生IDを無効化できるため、情報漏洩や不正利用を防ぎ、リスクを大幅に低減します。物理カードのように再発行の必要もなく、セキュリティに関する課題を解決できる点は、学生の負担を大幅に低減します。
物理カードから「デジタル学生証」へ
「デジタル学生証」で、大学・職員・学生がラクになる
このように「デジタル学生証」は、物理学生証の困りごとの有力な解決策です。以下にまとめた表からも明らかなように、「デジタル学生証」は大学と学生の双方にメリットをもたらします。大学・職員は、発行や管理の負担が軽減され、コスト削減や効率的でセキュリティ性を備えた運用を可能にします。プラスチックカードが不要になることで環境負荷の大幅な削減につながります。学生は、スマートフォン1つで学生生活の様々な場面に対応できるようになり、大幅に利便性が向上します。またセキュリティリスクの重圧から解放され安心して過ごせるようになります。
大学・職員・学生にとって、「デジタル学生証」が生活や業務をラクにする解決策であることは明確です。
物理カードの学生証 | デジタル学生証 | |
発行・再発行の手間 | 多い | 少ない |
回収の手間 | 多い | 非常に少ない |
コスト | 年間数百万円(大学)/再発行費用1,000~3,000円(学生) | 少ない |
環境への影響 | 廃棄プラスチックの増加 | 廃棄物削減に貢献 |
耐久性 | 低い | 影響がない |
セキュリティリスク | 紛失時にリスクあり | 紛失自体なし、無効化が可能 |
利便性 | 低い | 高い |
大学DX推進で重要な役割を担う「デジタル学生証」
社会全体のデジタル化、特にスマホアプリ化という避けられない流れの中で、学生証のデジタル化の遅れは、学生生活にさらなる課題を生む可能性があります。学生証を含めた身分証明の標準化が進み、社会のあらゆる場面で利便性と確実性が高まる中「デジタル学生証」の利用は必然となり、物理カードではそのメリットを享受することが難しくなるでしょう。
さらに、大学の価値を高め、学生の学びを支える「大学ポータルアプリ」を構築する上で、「デジタル学生証」はその中心的な存在となります。効率化や利便性向上を実現するだけでなく、大学のDX推進の象徴として、大学の先進的な姿勢を示す重要な取り組みでもあります。これからの学びの環境を支えるために、「デジタル学生証」の導入を積極的に進めることが求められています。
まとめ
学生証は、大学生活において機能面でも象徴的な意味でも欠かせない存在です。しかし、物理カードの学生証には次のような課題があります。
・発行再発行、変更の手間と即時性(時間がかかる対応、煩雑さ)
・回収と廃棄(運用コストがかかり、環境負荷が高い)
・コスト(制作や運用の費用)
・セキュリティリスク(紛失や不正利用)
・不便さ(携帯の手間、紛失破損の懸念)
「デジタル学生証」は、物理学生証の困りごとを解決し、学生と職員双方に大きなメリットをもたらします。職員は発行や管理の負担が軽減され、コスト削減や効率化を実現します。プラスチックカード不要で環境負荷を低減しSDGsへの貢献にもつながります。学生はスマートフォン1つで便利に学生生活を送りつつ、高いセキュリティ性で安心して過ごせるようになります。
デジタル化や身分証明の標準化が進展する社会において、「デジタル学生証」の利用が主流となり、物理カードの学生証ではそのメリットを十分に活用できない可能性があります。大学の価値を高め、学生に魅力的な未来の学び環境を実現する大学DXの推進において「デジタル学生証」は重要な鍵となります。これからの学び環境のために、大学DX推進の一環として「デジタル学生証」の積極的な採用が求められます。
アシアルはデジタル学生証を実現するソリューションとして「MyCampus」を提供しています。「MyCampus」はデジタル学生証の導入効果を高める機能が充実しています。教務システムやLMSなど既存システムとの柔軟な連携や、QRコードやNFCでの入退室管理、MyCampusビーコンを設置することで出席管理も実現できます。デジタル学生証が大学ポータルアプリとして運用できることで、学生証をデジタル化するメリットを最大限活用することができます。デジタル学生証に興味がある方は、ぜひお問い合わせください。
デジタル学生証がポータルアプリにもなる「MyCampus」のご案内資料もあわせてご覧ください。
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