「マイナンバーカードや運転免許証のスマホ搭載」というニュースが流れてから数年。当初は普及を疑問視する声もあった身分証のデジタル化ですが、電子証明書やマイナ保険証のスマホ搭載を経て、いまや暮らしの「当たり前のインフラ」となりつつあります。こうした流れを受け、大学でも「学生証のデジタル化」が急速に進展しています。一方で、教務やDX推進を担う現場からは「自校の学生証は今後どうすべきか?」という切実な声も多く聞かれます。
本コラム(前編/後編の全2回)では、デジタル学生証を取り巻く環境の変化と導入のための壁の乗り越え方を解説。前編となる今回は、2026年における身分証明の「リアルな現在地」と、次世代の認証基盤の動向に迫ります。
身分証明のモバイル化が進む社会〜デジタル学生証への更なる期待
急速に変わる社会の「身分証明」の常識
私たちが日常的に手にする「身分証明」のあり方が驚くほどに変化しています。つい数年前まで多くの人にとって「大切なカードや保険証は財布に入れて持ち歩く」のが当たり前でしたが、その常識は過去のものとなってきました。銀行口座の開設や携帯電話の契約における本人確認のオンライン化(eKYC:Electronic Know Your Customer)、確定申告や行政手続きにおけるスマホ認証など、「スマートフォンによる本人確認」はすでに私たちの日常に深く定着しています。
さらに、iPhone/Android双方へのマイナンバーカード機能の搭載や、マイナ保険証への移行およびスマートフォン対応、マイナ免許証の運用開始などが重なったことで、社会の多くの場面で「スマホ1台あれば身分証明が完結する」という実用環境が本格化してきました。
| 2021年3月 マイナ保険証オンライン資格確認システムの運用開始(本格運用は同年10月〜) 2023年5月 マイナンバーカードの電子証明書機能のAndroidスマホ搭載 2025年3月 マイナ免許証開始 2025年6⽉ iPhoneのマイナンバーカード開始 2025年9⽉ スマホ搭載のマイナ保険証の運⽤開始 2026年秋 Androidのマイナンバーカード開始予定 政府はモバイル運転免許証の運用をできるだけ早期に開始すると表明 |
「日常はスマホで完結」Z世代のリアル、学生にとって「学生証」とは
ここで注目すべきは、キャンパスに通うZ世代の学生たちのリアルな意識です。
総務省の統計(*1)によれば、20代のスマートフォン利用率は9割を超えており、デジタル庁の調査(*2)でも、マイナンバーカードのスマホ搭載(電子証明書)の利用率は若年層が全年代で最も高くなっています。買い物から交通機関、各種手続きまで「スマホ1台で完結する」のが日常となった学生たちにとって、「なぜ毎日のキャンパスで使う学生証がプラスチックカードのままなのか」という違和感は、極めて自然な感覚と言えるのではないでしょうか。
さらに実際の学生生活において、プラスチックの学生証や身分証が入った財布を紛失すると、学内手続きや本人確認が一気に停滞する大きなリスクを伴います。スマホ側に信頼できるデジタル学生証が搭載されていれば、万が一の際にも迅速に本人確認ができ、学生生活の停滞を防ぐことが可能です。何より、スマートフォンは学生たちにとって肌身離さず持ち歩く生活の一部であり、紛失した際にも即座に気づくことができる存在です。
これは単なる利便性にとどまらない、デジタルネイティブ世代の生活様式に合わせたリスク管理です。デジタル学生証の導入は、業務効率化にとどまらず「学生を守り、キャンパス体験を高める当たり前の環境」へと進化するフェーズに入っています。
*1 総務省「令和7年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd111110.html
*2 デジタル庁「マイナンバーカード・マイナ保険証利用状況ダッシュボード」および「マイナンバーカードの利用状況・スマホ搭載に関する意識調査」
https://www.digital.go.jp/resources/govdashboard/mynumber_card_penetration_usage
進むデジタル学生証導入、先行事例の成果と学外利用への課題
先行導入大学が示すキャンパスDXの大きな成果
実際に、先進的な大学では「デジタル学生証」の導入が大きく広がっています。これら先行する大学を取材する中で見えてきたのは、単なるペーパーレス化やコスト削減にとどまらない、多様で実質的な導入成果です。学内ポータルやプッシュ通知との連携による重要なお知らせの到達率向上をはじめ、図書館での貸出、施設入館、授業の出席確認など、日常的なシーンでスムーズな運用が進んでいます。「スマートフォン1台でキャンパスライフが完結する快適さ」は、学生・教職員の双方から高い評価を得ています。
| 【詳細は取材記事をぜひご覧ください】 秋田大学様:学生証の発行業務を削減、デジタル学生証でかなえる次世代キャンパスDX – 地域とともに進む秋田大学のDX – 大和大学様:デジタル学生証を中心に学内システムを連携した大学ポータルアプリ – 大和大学が実現するデジタル改革 – 大阪大学様:デジタル身分証で進化するキャンパス - 学内を超えて社会へと繋がる大阪大学のDX戦略 – |
主要大学における導入アプローチには2つのパターンがあります。
一つは運用を一本化して完全デジタル化を図る物理カードを廃止するパターン。
もう一つは、現在をデジタルへの移行期と捉え、まずは確実性とスピード感を重視して既存の仕組みを残しながら導入を広げる物理カードとの併用パターンです。大学ごとの環境や事情に合わせてそれぞれが戦略的に導入を推し進めています。

個別の対応から「全国共通のインフラ」という次のステージへ
学内DXとしては大きな成功を収めているデジタル学生証ですが、広域な「学外利用」に目を向けると新たな課題が浮かび上がります。
先行導入を進めた大学では、地元の自治体や店舗と密に連携することで学割対応などを実現してきました。しかし、学生の活動範囲はキャンパスの周辺だけに留まりません。全国規模の鉄道・バスなどの交通機関、資格試験、各種民間サービスでデジタル学生証を通用させるには、大学ごとに個別調整を続けることには限界があります。
大学や地域ごとの「個別の取り組み」から、全国の交通・行政・各種サービスとシームレスにつながる「共通インフラとの連携」へ。デジタル学生証の価値を真に高めるため、今まさに次なるステージへの転換が始まっています。
学認・NIIの標準化を土台に「共通認証基盤」へ
「デジタル学生証」個別対応から共通規格へ
個別対応のフェーズを超え、全国共通の社会インフラへと進化させるため、国立情報学研究所(NII)は2025年に「学術機関の発行する証明書のための標準属性とその利用シーン」「デジタル学生証の標準様式と発行シナリオ」(*3)についてリリースを行っています。
デジタル学生証を学外で身分証として利用する場合には、券面情報の真正性や本人所持の保証が必要になります。また、交通機関や資格試験などサービスを提供する側(検証者)と大学が個別に対応を行うと、お互いの経済的な負担が大きくなります。これらの課題を解決するためにデジタル学生証の標準仕様が求められていることが、背景にあります。
具体的には各大学が発行するデジタル学生証の真正性と本人所持を担保するために、mdoc(エムドック)というデジタル認証アプリやモバイルデジタル運転免許証で採用されている国際標準規格を解決策の一つとして提示しています。また、併せてmdoc形式のデジタル学生証の発行に必要となる属性情報の標準仕様も提案しています。この標準属性には、従来の学認(GakuNin)連携で使われてきた大学内の認証の仕組み(IdP:Identity Provider)には含まれていない「顔写真」や「誕生日」といった詳細な属性情報が定義されており、それらの属性をあつかう属性プロバイダ(AP:Attribute Provider)についても定義しています。
デジタル学生証は、各大学やサービス提供者側で個別の仕様で対応するのではなく、NIIが提案する標準属性や発行シナリオを土台とした全国共通の信頼性の高い「デジタル学生証」の実現を目指して動き始めています。
*3 NII トラスト・デジタルID基盤研究開発センター「標準属性・様式に関する標準規格の発行について」
https://trustdigitalidcenter.jp/?page_id=63
技術検証から「実用フェーズ」へ進む実証実験
NIIはデジタル学生証の標準仕様の提案と並行して、社会実装のフェーズの実証実験も行っています。
2026年3月に実施された、JR西日本 ・カラオケまねきねこ・ 4大学(大阪大学、広島大学、大和大学、京都女子大学)が参加した取り組みでは、NIIは各大学に対して実証実験のための属性プロバイダ(AP)機能とVC(VC:Verifiable Credentials)形式のデジタル在学証明書の発行サーバーを提供しています。また本実証実験では本人確認についてはデジタル認証アプリを採用しています。
期間限定の社会実装という位置づけではありますが、複数の大学とサービス提供者である鉄道会社や事業者において共通フォーマットのデジタル在学証明書が活用されたことは非常に大きな進展と言えるのではないでしょうか。

この実証実験における実際の利用シーンでは、まず学生が大学の認証基盤でログインをしてVCを取得、自身のスマホ内のウォレットアプリへと格納します。
サービス利用時にはデジタル認証アプリからマイナンバーカードによる本人確認を行います。
こうして発行された信頼性の高いデジタル在学証明書データ(VC)と、マイナンバーカードによる本人確認を組み合わせることで、「スマホを操作している人物=間違いなく大学に在籍する学生本人である」という身元と資格証明が確立されます。

これにより、JR西日本のサービスにおいては、駅窓口に並ぶことなくスマートフォン上で「関西おでかけフリーパス」の購入やポイント獲得が完結しました。また、カラオケまねきねこの店頭においては、アプリ上でデジタル在学証明書を提示して在学認証・本人確認を行うことで学割クーポンを取得でき、店頭ではそのクーポンを提示するだけでサービスが受けられました。店舗側もスクリーンショット等の偽造リスクから解放されるという、「学生・大学・事業者」の三者すべてにメリットがある運用が試されました。
この章の資料出典:「マイナンバーカードを活用した在学資格証明デジタル化実証実験メディア向け報告会」資料の抜粋(デジタル庁)
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/70379386-90df-43f0-8a06-9b6597e011c0/833aaf6d/20260324_news_mynumbercard-usage_outline_01.pdf
社会実装を加速するフェリカネットワークス「学生証プラットフォーム」
デジタル学生証の社会実装をさらに加速させるサービスとして本格スタートしたのが、2026年7月に発表されたフェリカネットワークスによる「学生証プラットフォーム」です。国際標準規格mdocやNIIが提案する国内共通プロファイルに準拠している点が大きな特長です。
フェリカネットワークスの「学生証プラットフォーム」は、学生証を発行・更新する際に学認の「SP(サービスプロバイダ)」として大学のIdP(学内認証基盤)と安全にやり取りします。そして、大学のデジタル学生証アプリに組み込む「発行・提示SDK(開発環境)」と、店舗・ゲートやWebサービスなどのサービス提供側に組み込む「検証SDK・API(システム同士がやりとりするための仕組み)」の両方を提供することで、デジタル学生証の大学間連携や学外利用の課題を解決します。
大学側は自前でシステムをゼロから作らなくても標準規格の学生証を発行でき、店舗やゲート側も大学ごとに個別対応するのではなくSDKを活用して、各大学の学生証を検証できるようになります。
こうしたプラットフォームの登場により、技術・規格面での土台は着実に整いつつあります。標準化された共通基盤の整備によって、学外でもシームレスに使えるデジタル学生証の実現は、いよいよ現実味を帯びてきました。
フェリカネットワークス株式会社 ニュースリリース(2026年7月15日)
https://www.felicanetworks.co.jp/news/assets/82a2f22722ea20601ee0070f949e023c049c230e.pdf
関連記事:デジタル学生証を社会とつなぐ – mdocで拓く、大学DXの新しい認証基盤 –
デジタル身分証へシフトする社会、問われる大学の対応
ここまで見てきたように、デジタル学生証を取り巻く環境の変化は劇的に加速しています。これまで学内利用が中心であったデジタル学生証は、学認とNIIによる標準化やフェリカネットワークス「学生証プラットフォーム」といったプラットフォームの整備によって、実社会でも通用する信頼性の高い「デジタル身分証」へと変容を遂げつつあります。
社会がデジタル身分証へと確実にシフトしている今、デジタル学生証の標準化・学外連携に対応できるかどうかは、今後の「学生のキャンパス体験」や「大学の先進性」における評価を左右し、対応の遅れがそのまま大学の競争力低下に繋がりかねないフェーズに入ったと言えるのではないでしょうか。
しかし、「導入しないという選択肢」が消えつつある一方で、いざデジタル学生証の導入を検討すると、現実には「技術」「運用」「コスト」という3つの壁が立ち塞がります。現場のリアルな課題を解決できなければ前には進めません。
そこで後編では、理想論から一歩踏み込み、大学がこの「3つの壁」をどのように現実的に乗り越えていくべきか、その具体的なアプローチと現時点での解決のヒントを解説します。
まとめ
2026年の今、デジタル学生証への移行は単なるプラスチックカードの置き換えではありません。学認、NIIによる国内共通プロファイルの標準化整備、そして国際標準に準拠したフェリカネットワークスの「学生証プラットフォーム」といった基盤の登場により、「学生の利便性向上」「大学教務の効率化」「学外・社会とのシームレスな連携」を同時に叶える次世代のキャンパスインフラへと進化し続けています。
社会全体が「デジタル身分証」へと急速にシフトする中、「デジタル学生証」は大学にとっていずれ向き合うことになるテーマであることは間違いありません。しかし、導入にはいくつかの壁が存在するのも事実です。
最初から完璧な仕組みを目指す必要はありません。まずは現状を整理し、既存システムでどこまで対応できるかを把握することから始めることをおすすめします。できるところから柔軟に「スモールステップ」で進めていくことこそ、今の時代に合った現実的なアプローチだと考えています。
アシアルはデジタル学生証を実現するソリューションとして「MyCampus」を提供しています。「MyCampus」はデジタル学生証の導入効果を高める機能が充実しています。教務システムやLMSなど既存システムとの柔軟な連携や、QRコードやNFCでの入退室管理、MyCampusビーコンを設置することで出席管理も実現できます。デジタル学生証が大学ポータルアプリとして運用できることで、学生証をデジタル化するメリットを最大限活用することができます。デジタル学生証に興味がある方は、ぜひお問い合わせください。
デジタル学生証がポータルアプリにもなる「MyCampus」のご案内資料もあわせてご覧ください。
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