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【事例】仮想空間で学生がつながる「縁バースキャンパス」 – 武蔵野大学が実現したメタバースキャンパス –

【事例】仮想空間で学生がつながる「縁バースキャンパス」 – 武蔵野大学が実現したメタバースキャンパス –

武蔵野大学は、私学初のデータサイエンス学部、AI副専攻制度、国内唯一のアントレプレナーシップ学部と、先進的な学びを提供し続けています。

創立100周年となる2024年5月、メタバース上に「縁(えん)バースキャンパス」が開設され、これまでに累計10,000人の学生・教職員が交流、協働し学びを深めています。先見性をもって、実社会で活きる学びへ熱意を注ぐ、上林 憲行 名誉教授、林 浩一 教授にお話を聞きました。

(2024年11月インタビュー)

学び+交流「縁バースキャンパス」の誕生

メタバースでつながる学生、一方向ではない学び合いの実現

上林名誉教授: 武蔵野大学は、これまで創立から節目の年に新しい校舎を建てるなどキャンパスの充実を図ってきました。武蔵野、有明、千代田と3つのキャンパスがあります。今年100周年を迎え、未来を見据えて、情報空間に第4の「スマートインテリジェンスキャンパス」を開設することになりました。メタバース上でつながるキャンパス、それが「縁バースキャンパス」です。

ヘッドマウントディスプレイが必要な3Dメタバースは、コストなど学生の負担が増え時期尚早だと考えました。あえて2Dとし手軽に誰でも参加できるようにしています。

林教授: ovice(オヴィス)というバーチャルオフィスサービスを活用しています。リモート会議サービスでは講義を聞くだけの受動的なものになりがちですが、縁バースは全く違います。学生は仮想空間を自由に移動し、仲間とコミュニケーションを取り、グループで話し合い、プレゼンを行うことができます。講義を受けながら仲間、SA(Student Assistant)、教員とつながり、自律して能動的に学びあっています。

縁バースキャンパスのクラスルーム

コンセプトを伝える縁バース、背景には多様な学生に利益をもたらす戦略が

林教授: 1つは通信教育部のさらなる充実です。少子化で18歳人口が減少していますが、一方で社会人の学び直し、再就職を目指す方の資格取得といった通信制への需要は伸びています。通信制を修了できるかは、学修者の“自分との戦い”にかかります。孤立感もありますし、そこを改善したかったのです。縁バースなら仲間とコミュニケーションし協働できます。学び+交流(ソーシャル)ですね。実際に学修者からは「周りに仲間がいるようだ」という声が届いています。

上林名誉教授: それから、SRM(Student Relationship Management)の構築です。米国では当たり前の考え方ですが、大学が学生の学修に関する様々な情報を統合的に管理して、長期に渡り良好な関係性を築くためのシステムで、学生の利益を最大化することが目的です。

情報空間というコンセプトを伝える上で視覚的にわかりやすい縁バースと、バックボーンとしてのSRMの構築を複合的に進めました。

上林 憲行 名誉教授

自由に大胆に進化が可能、縁バースへの期待

上林名誉教授: 今回は建築デザイン学科の先生と卒業生に素晴らしいデザインを作ってもらいました。縁バースは自由にレイアウトすることができるのです。

重力もありませんし、物理空間と異なり建設費もかかりませんから作り直しも容易です。今後もっと自由に大胆に発想してもよいですね。今のデザインは実際の物理的なキャンパスをモチーフにしていますが、物理的に離れたところにあるキャンパスの校舎や附属の高等学校・中学校をシームレスにつなぐことも可能です。物理空間と情報空間とを融合させてサイバーフィジカルキャンパスの実現も可能だと思います。

縁バースキャンパス(武蔵野キャンパス 1号館と2号館の間、ウッドデッキ広場のデザイン)

縁バースキャンパスで学ぶ「AI副専攻」

武蔵野大学では2021年、主専攻の学部学科と並行して学べる副専攻「AI活用エキスパートコース」(通称「AI副専攻」)が開設されました。ほぼ全ての科目が縁バースをはじめとするリモート学習環境でのオンライン授業の形で実施されています。文系理系を問わず、どの学科の学生でも追加の授業料なく履修が可能です。文科省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム制度」において「入門科目」の2科目が「リテラシーレベル」認定を、18科目のコース全体が「応用基礎レベル」認定を受けています。

修了しやすく実践的なAI副専攻、目指すのはAIを「活用する」エキスパート

上林名誉教授: 1年前期の「入門科目」は必修科目で全員が履修します。修了者は累計12,000名です。興味を持った学生は、副専攻履修生として「基盤科目」「専修科目」へと進むのですが、その段階で3年次の「人口知能実践プロジェクト」までの単位の履修をコミットしてもらっています。主専攻の科目にプラスして履修するのだと徐々に難しくなると諦めてしまうものですが、この12単位が主専攻での学位取得に必要な124単位に入るので、取得した単位が無駄にならないのです。そこが継続できる大きな理由の1つだと思います。

修了すると大学から修了を証明するオープンバッジ(国際的標準規格で発行される、スキルや知識を証明するデジタル証明)が発行され履歴書にも書くことができます。

AI副専攻の学び
令和6年度発行済オープンバッジ

林教授: 他大学の先生から、高度で素晴らしいAI科目を用意したが、最終的に修了者がいなかったという話を聞いたことがあります。私たちは、システムエンジニアのようなAIシステムを「制作する」エキスパートではなく、AIを「活用する」エキスパートの育成を目指しています。よく楽器に例えているのですが、楽器を作る専門家と楽器を使う専門家は異なります。作る専門家は楽器自体を素晴らしいものにする能力が必要です。使う専門家はシーンやオーディエンスに合わせて感動を与える演奏のために楽器を「活用する」能力が必要です。AIも同様で利用者視点の深い洞察力を持ち「活用」できる人材が社会に求められているのです。

実際に就職活動でも採用担当の方からは、AIやITの専門知識だけがある学生よりも、それをどう活かせるか考えられる学生の方に魅力を感じるという声をいただいています。

林 浩一 教授

AI副専攻の大きな成果 利用者視点の活用法

林教授: はい。AI副専攻では、1年生の時からすべての科目で、与えられたテーマを自ら調査検討し、グループディスカッションを行い、最後にプレゼンするという形で進めます。3年生で行う人工知能実践プロジェクトの授業では、テーマ自体も自分で決めて、AI活用サービスを検討します。修了式では、その内容についてポスター発表やフラッシュトークを実施します。卒業して社会に出るとプレゼン力がとても重要になりますが、卒業までに数十回のプレゼンやファシリテーションを行うため、修了生のスキルは非常に高くなります。

林教授: 修了式では「自分の関心のあることで新サービスを創出する」ためのAIの活用法をプレゼンすることになるのですが学生の発想は非常に面白いですよ。

「怖い夜道で不安を和らげるロボットのアイデア」を出した学生は、Pepper(ペッパーくん:ロボット)とChatGPTで実装し「STREAMチャレンジ2024」で特別賞を受賞しました。「作問学習(学習者が問題を作成する学習法)における誤問題作成を防ぐ」ための斬新なアイデアを考えた教育学科の学生もいました。「癌闘病者のブログの分析」を扱った学生は主専攻の社会福祉に直結するアイデアです。いずれも利用者視点に立って、どうしたらAIを活用し利用者に価値を提供できるかを追求しています。

就職活動や卒業後にも活きる体験を得る

林教授: 「3年生で修了認定がもらえるので就職活動に活かせる」「AI副専攻が糸口になって面接で会話が弾んだ」という声もありました。これまでにあまりなかったような大手企業からも内定が決まっていて手応えを感じています。実際にAI副専攻を修了した学生は、社会人1年目くらいのレベルまで成長しているはずです。

「学部学科を横断し交流するので今までつながりのなかった友達が増えた」とも聞いています。卒業後に活きるのはこういったリレーションシップなのです。

例年150名の定員に200名程の履修希望ですが、今年は500名と大幅に増加しています。修了者が就職活動で成功しているという生の声を聞いての反響だと思います。

社会で活かせる実践的な新しい学びのために

実践型授業の「データサイエンス学部」

上林名誉教授: 私が初代のデータサイエンス学部長を務めさせて頂きました。新しい分野ですから講義、座学、試験が無い、全てハンズオンの21世紀スタイルが基本の方針です。私たちは新入学時の1ヶ月が勝負だと考えています。入学前は他率的で受動的な学びに慣れていますから、大学での4年間をそのまま始めないために自律的で能動的な姿勢へと転換させる必要があるからです。大学と言えばゼミや卒論が最も効果的で象徴的な学びです。4年次まで待つのではなく、1年次から4年次までプロジェクト型の学び「未来創造プロジェクト(PJ)」に取り組みます。社会で活かせる知識とスキルを学ぶ実践型授業です。

1年生が情報処理学会の学生奨励賞を受賞の快挙、「教えない」授業

上林名誉教授: 企業で実際に活躍しているゲストスピーカーを招くことも多いのですが「授業の後半になっても熱気がものすごい。こんな授業は見たことがない」と驚かれるくらい、学生たちは終始主体的に取り組んでいます。

「未来創造プロジェクト」で1年生の学生が取り組んだ論文が、情報処理学会の学生奨励賞を受賞したこともあります。1年生ということで他大学や企業の方からも非常に驚かれました。

上林名誉教授: 「教員が教えない」というのが基本です。学生は「ぼんやりとした問題意識が先生と会話しているうちにテーマになっていく」とよく言いますが、学生の体験が起点となって自ら試行錯誤するというのが大切なのです。やがて学生は自走できるようになります。中には自主ゼミを始めて先生にオブザーバーを依頼してくる学生もいるくらいです。

上林名誉教授: 今後も先進的な学びを提供していくために大学DXは重要です。大学では部門や業務ごとに物品調達のようにシステムが導入されていることが課題だと感じています。システムは、導入することがゴールではなく、運用によって成果が出るものです。導入したシステムを最大限活かすことが大切ですから、今後はアジャイル的に変更やニーズに対応していけると理想的です。


上林 憲行 名誉教授
武蔵野大学名誉教授、東京工科大学名誉教授、AI教育推進機構 代表理事、工学博士。武蔵野大学データサイエンス学部 元学部長、元MUSICセンター長。人工知能学会理事、情報処理学会理事などを歴任。著書「サービスサイエンス入門」「電気通信と人工知能」「電気通信と人工知能」(いずれもオーム社)、「ネットワーク科学の道具箱」(近代科学社)など。
「0から1を作ること」が行動の指針

林 浩一 教授
武蔵野大学教授、スマートインテリジェンスセンター (MUSIC) センター長、工学博士。産総研技術移転ベンチャー ピースミールテクノロジー株式会社元社長。SE・技術者をコンサルタントに育成するためのロジカルシンキング研修、Web連載多数。武蔵野大学赴任後はAI副専攻コースの企画・運営、大学全体のDX推進に従事する。著書「ITエンジニアのロジカル・シンキング・テクニック」 (日経BP社)、「Java/Webでできる大規模オープンシステム開発入門」(丸善出版)、「IT現場で使える!ロジカルシンキング」(日経BP社)。オンライン講座「一気に即戦力!学生と社会人新人のためのロジカルシンキング&ライティング講座」(Udemy)。
モットーは「勝てる学び、勝てるAI活用で、勝てる人材を社会へ」

武蔵野大学 https://www.musashino-u.ac.jp/
縁バース https://www.musashino-u.ac.jp/enverse/