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大学のハイフレックス授業とは?基本から導入、実践まで詳しく解説

ハイフレックス授業は、大学教育に新たな可能性をもたらす革新的な学習形態です。この方式では、学生が対面授業とオンライン授業を自由に選択でき、自身のニーズや状況に合わせて柔軟に学習スタイルを変更することができます。本記事では、ハイフレックス授業の基本概念から具体的な実施方法、そして導入による効果まで詳しく解説します。
ハイフレックス授業とは?
ハイフレックス授業は、従来の教育方法に革新をもたらす新しいアプローチです。その特徴と基本原則を理解することで、この次世代の学び方の本質が見えてきます。
ハイフレックス(HyFlex)の概要
ハイフレックス(HyFlex)は、「ハイブリッド(Hybrid)」と「フレキシブル(Flexible)」を組み合わせた新しい教育方式です。この方式の特徴は、学生が自分に合った方法で授業に参加できる点です。具体的には、学生は毎回の授業で以下の3つの選択肢から自由に選べます。
- 対面授業
- リアルタイムのオンライン授業
- 録画視聴
この柔軟性により、学生は自身のスケジュールや学習スタイルに合わせて最適な方法で授業に参加できるようになります。
ハイフレックス授業の特徴
ハイフレックス授業の最大の特徴は、その柔軟性にあります。例えば、ある学生が月曜日は大学に行けるが、水曜日は遠隔地でアルバイトがある場合、月曜日は教室で授業を受け、水曜日はオンラインで参加することができます。また、急な用事で授業に参加できなかった場合も、後日録画を視聴して学習を進められます。
また、学習者中心主義も重要な特徴です。教員は多様な学習ニーズに対応するため、様々な教育手法や技術を駆使します。これにより、個々の学生に合わせた学習体験を提供することが可能となり、学習効果の向上が期待できます。
ハイフレックス授業と他の授業形態の違い
ハイフレックス授業は、既存の授業形態とどのように異なるのでしょうか。その特徴を理解することで、ハイフレックスがもたらす新たな可能性が見えてきます。
ハイブリッド授業との違い:同時性と選択の自由度
ハイブリッド授業とハイフレックス授業は、混同されることがよくありますが、重要な違いがあります。ハイブリッド授業では、対面とオンラインの組み合わせが事前に決められており、学生の選択の余地は限られています。一方、ハイフレックス授業では、学生が毎回の授業で参加方法を選択できる点が大きな特徴です。また、ハイフレックスでは、対面とオンライン両方の形態の授業が同時に提供されるため、より高い同時性と柔軟性を持っています。
オンデマンド授業との違い:リアルタイム性と対面オプション
オンデマンド授業は、学生が好きな時間に録画された講義を視聴できる形式です。ハイフレックス授業との主な違いは、リアルタイムの参加オプションと対面での参加機会にあります。ハイフレックスでは、録画視聴に加えて、リアルタイムでのオンライン参加や教室での対面参加が可能です。これにより、学生と教員、あるいは学生同士のリアルタイムなインタラクションが促進され、より豊かな学習体験を提供できます。
各授業形態の長所・短所
それぞれの授業形態には、長所と短所があります。
授業形態 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
ハイフレックス (対面orオンラインor録画) | ・高い柔軟性 ・学生の自主性を促進 ・多様な学習スタイルに対応 ・リアルタイムと非同期の選択が可能 | ・教員の負担が大きい ・設備投資が必要 ・技術的な課題が生じる可能性あり |
ハイブリッド (対面orオンライン) | ・対面とオンラインのバランスが取れている ・一定の柔軟性がある | ・ハイフレックスほどの柔軟性はない ・対面とオンラインの組み合わせが事前に決まっており、学生の選択肢が限られる |
オンデマンド (録画のみ) | ・時間的制約が少ない ・学生のペースで学習可能 ・繰り返し視聴が可能 | ・リアルタイムの相互作用が限られる ・学習のモチベーション維持が難しい場合がある ・即時のフィードバックが難しい |
最適な授業形態の選択には、学生のニーズ、教育目標、利用可能なリソースの総合的な考慮が必要です。科目の特性に応じて複数の形態を組み合わせることで、バランスの取れた効果的な教育環境を構築できます。
各授業形態の適した科目・状況
科目や状況によって適した授業形態は異なります。
例えば、討論や実践が重要な科目では、リアルタイムの相互作用が可能なハイフレックスやハイブリッド形式が適しています。
一方、理論中心の科目では、オンデマンド形式も効果的です。ハイフレックスは、多様な学習ニーズに対応できるため、幅広い科目に適用可能ですが、実験や実習など、特定の設備が必要な科目では課題が生じる可能性があります。
ハイフレックス授業の実践方法と環境整備
ハイフレックス授業を効果的に実施するためには、綿密な準備と適切な環境整備が不可欠です。ここでは、授業設計から必要な機材、教職員のサポートまでを詳しく解説します。
効果的なハイフレックス授業の設計と運営のポイント
効果的なハイフレックス授業を設計するには、まず学習目標を明確にすることが重要です。その上で、対面、同期オンライン、非同期オンラインの各参加形態で、どのように学習目標を達成するかを考えます。例えば、対面授業ではグループディスカッションを行い、オンライン参加者にはビデオ会議システムを通じて参加してもらうといった具合です。
また、学生の参加を促進するための工夫も必要です。例えば、オンライン参加者に対しても積極的に質問を投げかけたり、チャット機能を活用して意見を募ったりすることで、全ての学生が参加しやすい環境を作ります。さらに、授業後のフォローアップも重要です。録画された授業を視聴した学生に対しても、質問や意見を受け付ける仕組みを用意することで、学習体験の質を高めることができます。
TAやSAの活用によるオンライン参加者への支援
ハイフレックス授業においては、オンラインで参加する学生が置き去りにならないよう配慮することが重要です。この点で、ティーチング・アシスタント(TA)やスチューデント・アシスタント(SA)の役割が重要になります。
TAやSAは、オンライン参加者に対して積極的に声かけを行い、質問や意見を引き出すことで、参加意識を高めることができます。また、チャット機能を通じてオンライン参加者からの質問や意見を拾い上げ、教員や対面参加者に伝えることで、双方向のコミュニケーションを促進します。グループワークの際には、TAやSAがオンライン参加者のブレイクアウトルームに入り、議論の進行をサポートすることで、対面参加者との差を縮めることができます。
これらの取り組みにより、オンライン参加者の授業への積極的な参加を促し、学習効果を高めることが期待できます。
必要な設備とテクノロジー
ハイフレックス授業を実施するには、適切な設備とテクノロジーが不可欠です。ハードウェアとしては、高性能なカメラやマイク、スピーカーが必要となります。カメラは教室全体と教員を映せるよう、適切な位置に設置する必要があります。また、学生の声もオンライン参加者に聞こえるよう、複数のマイクを設置することが理想的です。
ソフトウェア面では、ビデオ会議システムやLMS(学習管理システム)が重要な役割を果たします。ビデオ会議システムは、リアルタイムでのオンライン参加を可能にし、LMSは授業資料の配布や課題の提出、ディスカッションの場の提供などに活用できます。さらに、オンライン上で簡単に協働作業ができるツールや、学生の理解度を即時に確認できるオンラインクイズツールなども、効果的な授業運営に役立ちます。
教職員のスキル向上と支援体制の構築
ハイフレックス授業の成功には、教職員のスキル向上と適切な支援体制が欠かせません。教員に対しては、ハイフレックス授業の設計方法や、必要な技術の使用方法に関するトレーニングを提供する必要があります。また、授業中のトラブルに対応するための技術サポートスタッフの配置も重要です。
さらに、教員同士が経験やベストプラクティスを共有できる場を設けることで、継続的な改善が可能となります。例えば、定期的なワークショップや事例共有会を開催することが効果的です。また、ハイフレックス授業の設計や実施に関するガイドラインや、よくある質問とその回答をまとめたリソースを用意することで、教員の負担を軽減することができます。
ハイフレックス授業の導入事例
ハイフレックス授業は、世界中の大学で導入が進んでいます。ここでは、国内の先進的な事例とその成果をご紹介します。
早稲田大学
早稲田大学経営管理研究科では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、ハイフレックス型授業を積極的に導入しています。この革新的な授業形式により、学生は教室での対面授業、リアルタイムのオンライン授業、録画視聴のいずれかを自由に選択できるようになりました。
実践方法としては、学生の状況に応じた柔軟な参加形式を提供するだけでなく、オンラインと教室の参加者が混在したインタラクティブなグループワークを実施しています。さらに、国内外の多様な講師陣をオンラインで招き、学生に幅広い知見を提供する機会を増やしています。
環境整備においては、高性能な音声・映像機器を導入し、クリアな音声でのディスカッションを可能にしました。また、オンライン参加者が教室の参加者一人一人を見られるよう、カメラ機能を調整しています。さらに、教員や学生が容易に操作できる直感的なインターフェースを持つシステムを採用し、テクノロジーの障壁を低くしています。
これらの取り組みにより、学習体験は大きく改善されました。仕事や家庭の事情で通学が難しい学生も、オンラインで授業に参加できるようになり、学習機会が拡大しました。また、オンラインと教室の参加者間の「コミュニケーションの隔たり」が大幅に解消され、より活発で実りある議論が可能になりました。
国内外のゲスト講演者を容易に招くことができるようになったことで、学生はより幅広い知見や経験に触れる機会を得ています。さらに、オンラインと対面の学生が混在したグループワークが可能になり、より多様な意見交換や協働学習が実現しています。
録画視聴オプションの導入により、学生は自分のペースで復習したり、見逃した授業をキャッチアップしたりすることができるようになりました。これにより、学習リソースへのアクセスが向上し、個々の学習スタイルに合わせた学びが可能になっています。
このようなハイフレックス型授業の導入により、早稲田大学経営管理研究科の教育と研究の質が向上し、学生の学習体験も大きく改善されています。この柔軟な教育モデルは、現代の多様な学習ニーズに応えるものとして、今後さらなる発展が期待されています。
松山大学
松山大学の「eスポーツビジネスマネジメント」授業は、ハイフレックス形式を採用し、128名の学生に新しい学習体験を提供しました。この授業の成功は、綿密に計画された実践方法と充実した環境整備に基づいています。
実践面では、学生が毎回自由に参加形式を選べる柔軟性が特徴的でした。対面、オンラインリアルタイム、録画視聴のいずれかを選択できることで、学生の多様なニーズに応えました。また、対面とオンラインの学生が同時に参加できる質疑応答の時間を設けることで、インタラクティブな授業運営を実現しました。さらに、授業後30分以内にGoogle Formを使って感想を提出させる取り組みは、学生の理解度を即時に確認する効果的な方法となりました。
評価方法においても工夫が見られました。最終レポートにはルーブリック評価を採用し、評価基準を事前に明示することで学生の学習目標を明確にしました。また、優秀なレポートを共有することで、他の学生の学習意欲向上と理解促進につながりました。
環境整備の面では、教室にデジタルビデオカメラやUSBマイクを適切に配置し、オンライン参加者にも高品質な映像と音声を提供しました。Google ClassroomをLMSとして活用し、授業資料の配布から課題提出、フィードバックまでを一元管理しました。Zoomの利用によりリアルタイムでのオンライン参加を可能にし、授業のアーカイブ動画をYouTubeの限定公開で共有することで、復習や欠席者のフォローアップに役立てました。また、安定したオンライン配信を実現するため、有線および無線のネットワーク環境も整備しました。
これらの取り組みにより、顕著な教育効果が得られました。単位取得率は88.3%と高く、99.1%の学生が「この授業を後輩に勧めたい」と回答するなど、学生の満足度も非常に高いものでした。また、88.2%の学生が「他の授業よりも集中して聴講できた」と回答し、52.9%が「質問しやすい環境だった」と評価しました。
学習成果の面でも、対面受講生とオンライン受講生の両方が一定水準の成果を示しました。特筆すべきは、この授業をきっかけに学生主導の新しいプロジェクトが立ち上がるなど、学生の主体性向上にも寄与したことです。
この事例は、適切な実践方法と環境整備により、ハイフレックス型授業が高い教育効果を生み出せることを示しています。学生のニーズに合わせた柔軟な参加形式の提供、インタラクティブな授業運営、適切な評価方法の採用、そして十分な技術的サポートが、この成功の鍵となりました。
まとめ
授業の可能性を最大限に引き出していくことが、これからの大学教育には求められています。技術の進歩とともに、ハイフレックス授業はさらに進化していくでしょう。AI技術の活用により、個々の学生に最適化された学習体験を提供したり、VR技術を用いてより没入感のある遠隔授業を実現したりする可能性も考えられます。一方で、対面でのコミュニケーションの価値を再認識し、オンラインと対面のバランスを取りながら、より質の高い教育を提供していくことも重要です。
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